脱はんことは?

「脱はんこ」とは、書類への押印が慣例となっていた業務を見直す動きの総称です。

ビジネスや行政手続きなどさまざまな場面で確認・承認が行われた事実や承認者を示すことを目的に書類への押印が求められてきました。海外では署名(サイン)が主流であり、はんこ文化は世界的にも珍しい文化です。

このはんこ文化が業務のデジタル化を阻害する要因となっているため、政府は電子署名法や電子帳簿保存法などの法律を整備して脱はんこ化を推進しています。政府の目指す「働き方改革」において、労働時間短縮に向けた生産性向上やテレワークのために書類のデジタル化は解決すべき重要課題だからです。

また、ペーパーレス化は各国で行われているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みとしても推進されています。

加えて、新型コロナウイルスの感染防止のためにテレワークが普及したことも、脱はんこの追い風です。書類や印鑑がデジタル化されることで場所や時間にとらわれない事業活動が可能なりますし、密になる環境や対面接触を避けることができます。

脱はんこでは、押印の必要性の再確認や、押印に変わる電子的方法を利用することで押印が必要な業務を削減し、業務効率化やペーパーレス化を目指します。

どんなシチュエーションで脱はんこ可能か?

脱はんこが可能なシチュエーションとして代表的なのは次の場合です。

社内の承認業務

経費の承認や稟議、社外向けドキュメントの監査など、社内で承認のために押印しているケースは多いものです。社内の承認業務では、確認・承認した事実やその責任の所在を明らかにするために押印が行われますが、押印でなければならない理由は特にないものも多いです。社内の承認業務は自社だけで完結するため最も脱はんこを始めやすい分野です。

社外との契約書類

取引で利用する契約書や発注書などの書類の多くで脱はんこは可能です。ただし、社内と違って取引先の慣習によって可否が分かれます。また、一部の商品や契約では押印が必須となっていることもあるため注意が必要です。

また、検品などで利用される伝票類を扱うシチュエーションではデジタル化が難しいことも多く、脱はんこの善し悪しはケースバイケースです。

行政手続き

行政上の手続きも脱はんこ化が進められている分野です。内閣府の調査では、押印が必要な手続きが820種類ありましたが、現場から押印の存続が求められたものは35種類に過ぎなかったそうです。現在、脱はんこに向けたさまざまな仕組み作りが国や自治体で進められています。今後、企業に関係する手続きでも脱はんこの動きが進むと期待されます。

参考:内閣府「当面の規制改革の実施事項(令和2年12月22日)

脱はんこのメリット・デメリット

脱はんこをすることで、どのようなメリットやデメリットがあるのか見てみましょう。

脱はんこのメリット

脱はんこを行う最大のメリットは業務の効率化です。押印すべき人と書類と印鑑がそろっていなければ押印はできません。押印のためにオフィスに戻るような状況も少なくありません。その他、きれいに印鑑を押す時間やインクの乾燥を待つ時間なども必要です。脱はんこの実現により、こうした時間を削減することができます。

また、脱はんこによってワークフローの並行化が可能になります。承認者が複数必要な稟議書などの書類の承認手続きが、場所や時間に関係なく並行して行えるようになるため効率的です。脱はんこが進むことでペーパーレス化が進めば、印刷費や郵送費、印紙代の削減などコストダウンにもつながります。保管する書類が減ることで、オフィススペースの削減や効率的な活用につながるケースも多いです。書類が電子化されることで検索性の向上、セキュリティ強化などの効果も期待できるためコンプライアンス強化にもつながります。

脱はんこのデメリット

脱はんこのデメリットはシステムの導入が必要でコストがかかることです。また、新しい仕事の仕方に慣れるまでの時間や教育コストも必要になります。

また、取引先の都合や法令上の理由により、脱はんこができない書類もあることに注意が必要です。そのため、脱はんこを行っても業務では印鑑を併用することになり、メリットを感じられないこともあります。

押印処理に関する記述がある法令は電子帳簿保存法や電子署名法、IT書面一括法、e文書法、デジタル手続き法などの他、印紙税法や民事訴訟法、さらには宅地建物取引業法や人材派遣法などの業界関連法律など多岐にわたります。詳しくは弁護士などの専門化に確認するのがよいでしょう。

脱はんこをはじめるには?

脱はんこを始める場合、次のような手順で進めていきます。

押印業務の洗い出し
自社で押印が必要になっている業務にはどのようなものがあるかを洗い出します。また、政府で行われたように、押印業務の必要性について現場がどのように感じているかも確認しておくとよいでしょう。
脱はんこの範囲の決定
業務の洗い出しができたら、脱はんこを行うべき範囲を決定していきます。一度に全社の脱はんこを行うこともできますが、周囲への影響の少ない部分から部分的に行っていくケースも多いです。関係者や事業活動への影響を考えながら慎重に検討します。
関連法令の確認
脱はんこの範囲が決まったら、その部分で押印を廃止することで法律上の問題が生じないかを確認します。もしも法律に抵触する可能性がある場合は、弁護士に相談したり適用範囲の再検討を行います。
システム設計・構築
脱はんこのための業務システムのイメージを検討し、システム開発やサービス選定を行います。現在の脱はんこでは、クラウドサービスを利用した電子契約システムやワークフローを利用するのが一般的です。企業内の既存システムとの連携が必要な場合や、市販のサービスで期待する要件を満たせない場合は、システムの開発を行うこともあります。
なお、単純に押印を廃止するだけで良い場合、システムの導入は不要です。
テスト導入
電子契約や社内承認用のシステムができあがったら、限られた範囲でテスト導入を実施します。システムのエラーチェックや使い勝手、利用時に起こりがちなトラブルと解決策の確認や、業務効率への影響などの調査・評価がテスト導入の主な目的です。必要に応じて改善とテストを繰り返し、本格導入につなげます。
全社への本格導入・教育
テスト導入で問題がなければ全社または関係者全体にシステムを導入します。導入当初は業務フローの変更によって混乱が起こることもあるため、十分なサポート体制を準備しておきましょう。合わせてユーザー教育や、取引先などへの通知も行っておくようにしてください。
一部の業務への適用だとしても、脱はんこのノウハウが蓄積されれば他の業務への展開はずっと楽になります。導入コストや効果をよく確認・評価し、脱はんこ化の範囲を広げていきます。

脱はんこを始めよう

「脱はんこ」は政府方針や社会的ニーズから進んでいる動きです。書面・押印を伴わない脱はんこの仕組みができれば、働き方や生産性にも大きな影響があります。脱はんこはコストもかかりますが、コストダウンや生産性向上にも寄与します。少しずつ進めることもできますので、まずはできる部分から取り組んでみてはいかがでしょうか。

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