印紙税が0になる理由
印紙税は、印紙税法で定められた文書を作成した時に課税され、その中には領収書や各種の契約書も対象になっています。ですから、多くの企業にとって多額の納税費用がかかっているのが現状です。
しかし、印紙税法の解釈上、電子データを用いて電子契約を行った場合、その電子契約書は印紙税の課税対象外となります。つまり、なんと印紙税が0になるのです。
この記事では、電子契約に興味や関心がある方や、業務をデジタル化することによるペーパーレス化、効率や生産性の向上に取り組もうとされている方を主な対象として、電子契約を導入することによる大きなメリットの一つ、印紙税の削減について解説しています。
最新の法令に準拠し、ポイントを具体的に分かりやすく説明していますので、実際のビジネスシーンでお役立ていただければ幸いです。
目次
印紙税とは?
私たちの日常生活の中でも、収入印紙が貼り付けられている、つまり印紙税が貼付されている文書を目にすることは珍しくありません。
例えば、このような文書に収入印紙が貼付されているのを見たことがあるのではないでしょうか。
領収書 | 1通につき200円 |
保険証券 | 1通につき200円 |
請負契約書 | 契約金額に応じて1通につき400円から60万円 |
会社設立時の定款原本 | 1通につき4万円 |
しかし、もしかすると普段は、収入印紙が税金と関係していることさえ意識していないかもしれません。
印紙税とは、印紙税法に規定されている特定の文書を作成した場合に納税義務が発生する国税です。
原則として、その課税文書に収入印紙を貼り付けることによって納付することとされており、さらに、印鑑か署名で文書と収入印紙の間にかけてハッキリと消印する必要があります(印紙税法8条)。
印紙税が必要なのはどんなとき?
印紙税が必要となる場合、すなわち印紙税が課税され収入印紙を貼付しなければならないのは、印紙税法別表第1の課税物件表で20種類にわたり列挙された文書を作成したときです(同法2条)。
印紙税の納税義務は、課税文書の作成者が負います。二人以上で共同して課税文書を作成した場合には、その二人以上の作成者が連帯して納税義務を負うと定められています(同法3条)。
ただし、特定の法人、国、地方公共団体等が作成した文書等、同法5条各号に列挙された文書については印紙税は課税されません。
印紙税が課税されるのはなぜなのか?
では、契約書や領収書などの文書を作成したからといって税金が課されるのは一体どういう訳なのでしょうか?
過去の政府答弁では、次のように説明されています。
これは、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める印紙税の性格を踏まえ、課税文書ごとにその文書の作成の基因となる経済取引の内容やその文書の作成実態等が異なる点を考慮していることによる。
引用:参議院HP
このように印紙税は、契約書や領収書など、日常の経済取引に伴って作成される文書に課税されますが、その背後には一定の経済的な利益が存在すると推定されます。また、きちんと文書が作成され取引の事実が明確になっているということは、法的に安定した経済的取引関係があると言うことができます。
このように、課税文書を各種の経済取引の表現と捉え、それらが所得や財産など税金を負担する能力(担税力)を間接的に表しているという考え方が、印紙税の課税根拠とされているのです。
その基本的考え方により、例えば簡易な物品の受取書のように課税の対象としてしまうと取引を過度に阻害してしまうおそれのある文書や、雇用契約に関する文書は印紙税の課税対象となってはいません。
収入印紙を貼付しなかった課税文書の効力
もし、課税文書を作成する際に収入印紙を貼付せずに印紙税を納付しなかった場合、その文書の効力はどうなってしまうのでしょうか? 例えば、商取引で取り交わした契約書に収入印紙を貼らなかった場合、契約書の効力はどうなるのでしょう?
この点、収入印紙を貼付して印紙税を納めることによって国が課税文書の効力を保証してくれるのだという誤解があります。この考え方からすると、収入印紙を貼らなかった課税文書は国による「お墨付き」がなく無効ということになります。
しかし、前述のとおり、印紙税が課税されるのは、課税文書の作成に担税力が間接的に表れているからであって、国の保証を得るためなどという趣旨はありません。
したがって、収入印紙を貼付しなかった課税文書についても、印紙税の不納付を理由として効力が否定されることはありません。
ただ、印紙税を納付しなかった場合には、納付しなかった印紙税額と、その2倍の金額の合計、つまり3倍に当たる過怠税を徴収されることになります。ただし、自主的に申し出た場合は、過怠税が1.1倍に軽減されます(印紙税法20条1項および2項)。また、収入印紙を貼り付けても、正しく消印しなかった場合には、消印されていない収入印紙の額面に相当する過怠税が徴収されてしまいます(同条3項)。
文書の効力には直接関係ないとはいえ、ビジネスシーンの常識として十分に留意しておきましょう。
参考:国税庁HP
電子契約で印紙が必要ないのはなぜか?
電子契約とは?
電子契約とは文字通り、契約内容を電子データ(PDFなど)で作成し取り交わした契約のことです。従来の紙文書を用いた書面契約に代わるものとして、業務効率化やコスト削減、契約手続における法令遵守の担保等のメリットが期待されています。
しかし、単にPDFファイルを送受信しただけで書面契約と同等の効力を持つわけではありませんでした。多くの法令で書面による処理が求められていたからです。また、書面の真正性(本物であること)についても、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定する民事訴訟法228条4項に基づき、紙の書類現物への押印や署名による証明が実質的に当然のこととして求められていたのです。
この課題について2005年4月、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(通称「e文書法」)が制定されました。
この法律では、それまで書面を前提とした法令の規定により行わなければならなかった保存、作成、交付等を電磁的記録によって行うことができるものと定められました。また同時に、まさに契約書への署名押印のように、電磁的記録により文書を作成した文書に署名等をしなければならない場合には、「氏名または名称を明らかにする措置であって主務省令で定めるもの」を用いることを可能としました(同法4条)。
これに伴い、各省令により「電子署名」方式が採用され、電子署名の法的効力を定める「電子署名及び認証業務に関する法律」(通称「電子署名法」)が準用されました。電子署名とは、ある時点で特定の電磁的記録を本人が作成したこと、そして作成以降に改ざんされていないことを証明する電子データです。いくつかの方式がありますが、信頼できる第三者機関から本人であることを認証する情報が格納されたICカードが広く利用されています。
これら一連の法整備により、PDFなどで作成した契約内容の電子データに電子署名を付与することで、従来の書面契約と同じ効力を持つ電子契約が実現するに至りました。
一見すると複雑ですが、紙文書の取り回しの利かなさ、改ざんの危険性を考慮するならば、電子契約の利便性と安全性卓越さは明白です。
電子契約で印紙が必要ない理由
印紙税法別表第1には、各種の契約書が課税文書として列挙されています。しかし電子契約においては、その電磁的文書は印紙税の課税対象外です。それはどうしてでしょうか?
同法3条が作成者を納税義務者と定めるほか、作成に関するみなし規定(同法4条各項)、納付期限を作成の時と定める規定(同法8条1項)が置かれており、作成という行為が印紙税の課税の重要な基礎であることがうかがえます。この点、国税庁による「印紙税法基本通達」のうち作成等の意義を定める44条には次のように述べられています。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
引用元:国税庁HP
2 課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。(平13課消3-12、平18課消3-36改正)
(1) 相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時
(2) 契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書 当該証明の時
(3) 一定事項の付け込み証明をすることを目的として作成される課税文書 当該最初の付け込みの時
(4) 認証を受けることにより効力が生ずることとなる課税文書 当該認証の時
(5) 第5号文書のうち新設分割計画書 本店に備え置く時
ここに定められている作成の意義に照らすと、電子契約においては印紙税が課税されないことは明らかです。なぜならば、電子契約では用紙等に記載することはありませんし、それを相手方に交付することもないからです。
また、このことは参議院における政府答弁でも明確になっています。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
引用元:参議院HP
結果として、電子契約を導入することにより、それまで納付していた印紙税を削減できるのです。業種業態によって異なりますが、ほとんどの企業で少なくない額の費用が印紙税の納付に必要とされてきました。これが0となるのです。
まとめ:電子契約によって印紙税が0になる理由
印紙税は、印紙税法に列挙された文書に対して課税され、各種契約書を中心として、その納税費用は多くの企業にとって決して小さくない金額です。
しかし、印紙税法の解釈上、電子契約における電子データの作成、電子署名の付与や電子データの送受信は、課税文書の作成に該当しないため、印紙税の課税対象外となります。つまり、印紙税が0になります。
このように、印紙税の側面一つに着目しても、電子契約の大きなメリットを垣間見ることができます。この際、現在かかっている印紙税納付に要する金額を確認してみましょう。そして、その額を0とすることを一つのきっかけに、電子契約の導入を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。